風の教えるままに ジュノ編 8
2006年 07月 11日
タロンギ渓谷に風が吹いている。少し湿ったぬるい風だった。
「雨になりそうだね」
空を見上げ黒い雲が速度を速めて流れている様を見て、グッキーは誰ともなくつぶやく。
「ふむ・・・・ちょっと歩きを早めるか・・・」
その言葉に反応したクリエルが皆に向かって促すように言った。
「それがいいわね。ソロムグ入れば雨宿りできるところもあるし」
ジェイトンは同意し歩みを速める。みなもそれに習って続いた。
「フェイちゃん。格闘の練習はソロムグに入ってからしようね」
グッキーはにっこり笑ってフェイリーにいう。頷いて答え、遅れないようにフェイリーも皆の後を着いていった。
フェイリーの肩が治ってから、連日ライゼルとクリエルの指導の元フェイリーは格闘の修行(?) をしていた。わずかではあったがここいらのモンスターにも攻撃が当たるまでに成長していたのだった。
ウィンダスを出発してからすでに2週間がたっていた。旅なれないフェイリーの歩みに合わせてのんびりと進んでいく。
フェイリーにとって、見るもの聞くもの初めてのものばかりで、一つ一つ丁寧に説明しながら進むためますます歩みは遅くなっていったのかも知れない。
「さあ、フェイちゃん。この先がもうソロムグ原野だよ。最初の一歩を皆で一緒にはいろっか?」
にっこり笑って提案するグッキーに、フェイリーは嬉しそうに笑いながら元気に頷いた。
「まあ、ステキな提案。私も賛成!」
ジェイトンがグッキーとは反対側のフェイリーの隣に立つ。
「いいね」
クリエルも頷き、フェイリーとジェイトンの間に無理やり割り込んで立った。
「ちょっと・・・・なにするのよっ」
「背の順・・・・」
しれっと答えて、にやりとジェイトンに笑って見せる。
「なんですってーーっっ!! 」
たまらず声を上げるが、なるほどと変に納得したライゼルが素直にグッキーの立つ横に立ったものだから、ジェイトンは黙るしかなかった。
「あっはっはっは・・・・・」
勝ち誇ったようにクリエルは笑い出し、釣られて皆も笑い出す。だだ一人悔しそうなジェイトンを除いては。
「さぁ、いくよ! 1.2.の3!!」
ソロムグ原野に入ると少し塩の香りが混じった風が吹いていた。
「海があるの?」
敏感にそれを感じたフェイリーが聞くと、グッキーは頷いてそうだよと答えた。
「少しだけ荒い海だけどすぐそばが海だよ」
「ウィンダスにも海があるけど、いろんな海があるんだね」
穏やかなウィンダスの海の事を思い出しながら、フェイリーは頷いた。
「ふむ・・。だったら、雨がやんだら見にいってみるかい? もうすぐ天から雫が落ちてきそうだ」
クリエルの言葉に嬉しそうに行きたいとフェイリーは答え、空を見上げた。
「雨の匂いもするね」
「お前は犬かよ・・・」
鼻をひくひくさせているフェイリーにむかって、あきれたようにライゼルが言った。
「ウィンダスじゃみんなするもん! 」
「へーーーっ・・・」
「なによっ!」
兄妹(?) 喧嘩になりそうな二人に、グッキーは苦笑いして、雨が本格的に降ってくる前にテントを張ろうと促した。
「「はーーい」」
二人息の合った返事を返して、何かを言い合いながらテントを張れる場所を探しに向かう。そんな二人の様子に溜息をひとつついて、やれやれとグッキーは苦笑いをしたのだった。
「ママも大変ねー・・・・。てか、あの二人、なんだかんだと息が合ってるような気がするわ」
「クリエルさんとジェイトンさんみたいですよねー」
グッキーが発したこの言葉に、クリエルとジェイトンは絶句し、呆然と二人顔を見合わせた。
「冗談だろ!」
「冗談じゃないわっ!」
これまた、同時に叫んで、グッキーは『やっぱりそっくり』と苦笑いをするのだった。
建物が壊れ、残ったレンガの壁を利用して、旨い具合にテントを張ったフェイリーとライゼルは皆に手を振って合図を送った。
皆が、テントに入るとほぼ同時に雨が落ち始めた。
「・・・少し長雨になりそうだな」
静かに落ちてきた雫をみてクリエルが小さく呟く。少し苦しそうだとジェイトンは思った。この事に気づいたものはいただろうか。いや、いたとしてその訳を尋ねられたとしてもきっと答えはしないだろう。いつものにやりとした笑いを浮かべて『きのせいだ』と答えるに違いない。そう思って、ジェイトンは訳を聞くのをやめたのだった。
静かに落ちる雨の音を聞いているうちにフェイリーはうとうとし始め、ことんとすっかり定位置になったジェイトンの膝の上で眠ってしまった。
「あらあらあらあら・・」
そっとフェイリーを寝やすいように抱っこしなおしジェイトンは満足げに、くすくすとわらった。
「おっと・・・若人も眠ったか・・」
レンガの壁によりかかって、いつの間にかライゼルも居眠りを始めていた。
「やっぱり似てるわ・・この二人・・・」
おかしそうにジェイトンは笑って二人の顔を見比べる。
「ですよね」
グッキーも頷いて同意する。
「クリエルさん」
「んー? なんだい?」
グッキーはクリエルに向かって頭を下げた。
「おいおい、なんだ? どうした」
「すみません。やっぱり、報告した以上のこと思い出せないんです」
グッキーの言葉に、クリエルはそうか。。と頷き静かに目を閉じた。
「あの日、急いで現場に向かって、倒れていたお二人を見つけた。それだけ・・・僕はなにもできなかった」
悔しそうに、悲しそうにグッキーは言葉を震わす。
「グッキーちゃんのせいではないわ」
ジェイトンが言う。
「そのとおり。あの日たまたま担当がグッキーであったというだけだ」
「もう、フェイちゃんみたいな子を増やしたくないんです」
「そのためにも、がんばりましょう・・ね?」
ジェイトンの言葉に頷いて、グッキーは安心して眠るフェイのそばにより、やさしく頭をなでてやった。
「何かを知っていてなおも隠しているウィンの上層部。あちらこちらに出現している強化魔法をかけトカゲを操るヤグード。わからないことばかりだな」
クリエルの言葉に、同意してグッキーとジェイトンはうなずく。
「ああ・・・・。なんか、すっきりすることはないかね・・・・。仕方がない。俺たちも少し横になるとするか」
「じゃあ、私が火の番しておくから、安心しておやすみなさい」
「今回は、まかせるよ」
ジェイトンの言葉に素直に頷いて、クリエルはテント出入り口に一番近い場所にごろりと横になった。
「グッキーちゃんも、少しおやすみなさいな。雨がやんだら、とっとと出発してジュノに入りましょう。ゆっくりお風呂にはいりたいわー」
おどけるジェイトンに笑って頷き、グッキーもその場に横になった。
フェイリーはふと目を覚まし、みんながテントの中で眠っているのをみて、そっと、起こさないように歩いて外にでてみた。
雨はいつの間にか止んでいて、雨上がりの綺麗な空気を風がやさしく運んでいた。
「満月・・・きれー・・・」
ほほをなでる風に誘われるように空を見上げると、凛とした光を放つ真円なる月が浮かんでいた。
「目がさめたの?」
いつの間にかジェイトンが側に立って声をかけてきた。
「うん」
「綺麗な月よねー」
空を見上げてジェイトンも呟く。
「フェイちゃん。旅はたのしい?」
「楽しいです」
即答したフェイリーにうれしそうにジェイトンは頷いてその場に腰を下ろした。
「この辺にモンスターはいなかったから、大丈夫。少しお話ししましょう」
手招きされるまま、フェイリーはジェイトンのひざに抱かれるように腰をおろした。
「フェイちゃんは、これからもずっと冒険者するのかしら? もう決めた?」
「うーん・・・まだです。まだまだ、よわよわだから一人じゃだめだし・・・」
答えながら沈んでいくフェイの肩をぽんぽんたたいて、ジェイトンは慰める。
「あらあら、そんなことないわよ。強くなったわ」
「ほんとう?」
泣きそうな顔で見上げられて、ジェイトンはたまらなく抱きしめたくなる。
「本当よ!! サンドリアに行ったら、びっくりするわよ。あそこの周りの敵になんて負けないくらいにつよくなってるから」
抱きしめるのをぐっと我慢しつつ、フェイリーを励ます。
「よかった! 少しはつよくなれたんだ!」
全開の笑顔でガッツポーズをするフェイリーに、微笑み返してジェイトンは空を見上げた。
「ふう・・・綺麗なお月様のステキな夜の時間なのに・・・んもう! ぶすいねっ」
突然怒り出したジェイトンにびっくりして、フェイリーは周囲を見回す。
「なに??」
「うーん・・・なんでしょう・・・フェイちゃん。中の人たち全員起こしてくれる?」
フェイリーを抱いたまま立ち上がり、テントの前まで来るとそう告げた。
「はい」
うなずいたフェイリーに微笑んで、テント前に降ろしてやった。
「みんなっ! なにかよくわからないけどたいへん・・・・起きてる・・・・」
鼻息荒くテントに飛び込んだフェイリーの目に飛び込んできたのは、荷物をまとめ終わり、焚き火の始末をしているみんなの姿だった。
「いょお・・・ジョイルはそとかな?」
軽く手を挙げてクリエルがおどけてフェイリーにたずねる。フェイリーがそうだとうなずくと、クリエル独特の笑いを見せて立ち上がった。
「残りの片付けをしておくこと」
フェイリーに告げると、ライゼルに合図してテントの外に出ていった。
「はい!」
返事をしたものの、何が起こっているのかフェイリーにはわからない。
「うーとね・・・敵さんがきたみたい」
テントの端を引っ張りながらグッキーが言う。慌てて手伝いながらフェイリーが聞いた。
「敵が? なにもいなかったよ・・なんでわかるの?」
「んーーー・・・なんとなく・・かなぁ・・」
自分の眉間を指差してグッキーは続けた。
「この辺に・・こう。。ピリピリした感じがすると、敵が近くにいるんだよ・・・よく分からないけど、そうなの」
「すごいや! みんなそうなのかな?」
「うーん・・どうだろう・・・感じ方は色々・・・かなぁ」
ふーん・・と、頷きながらテントを必死に畳み、くるくると丸めて荷物をまとめる。
「ふう・・・。これでよし。あとはーー」
グッキーはフェイリーに守りの魔法、プロテス・シェルをかけてやり守るように側に立った。
「グッキーさん・・・」
「うん。大丈夫。守るから。みんなが守るから、そばを離れちゃだめだよ」
グッキーの言葉に頷き、周囲を見回す。
「くる・・・・・・」
突然、グッキーが抜刀した。
「月光の刃! バニッシュ!! 」
ジェイトンの魔法がフェイリーの目の前ではじけた。
『うぎぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・』
まだ姿を見せなかった敵に、魔法が命中した瞬間それは姿をみせた。
「ヤグード!!!」
フェイリーが驚きの声を上げるのと、グッキーの刃がヤグードに振り下ろされるのは同時だった。
よく、周囲を見回してみれば軽く200体はいるだろうか、ヤグードたちがトカゲを従えフェイリーたちを取り囲んでいた。
「グッキー、フェイリーをたのむ!! ライゼル、ヤグードは任せたぞ! ジェイトン、俺につづけっ!」
クリエルからそれぞれの役目を与えられ、実行する。
「フェイちゃん、いい? 怖くても僕から離れちゃだめだよ。絶対守るから。みんなでまもるからね」
先ほど伝えた言葉をもう一度、念を押すように繰り返し言う。これに答えフェイリーも強く頷いた。
「道を開く・・・・・ライ君!! 左にはしって!! 」
グッキーがライゼルに指示を出す。それに答えてライゼルが左リ側に走り出す。
『母なる大地の秘めし怒りの力我に宿りて敵を刺せ! ストーンIII』
グッキーの大地魔法が、ライゼルの攻撃で手薄になっていた場所に立つヤグードに直撃し、倒す。すかさずライゼルが側にいたヤグードを倒して道を少し広げた。
グッキーはフェイリーを促し、この敵の輪の外に出ようとした。
二人は走り出す。ライゼルも二人を援護しながら道を開いていった。
『月光の刃! バニッシガII!!』
ジェイトンの範囲魔法が発動してフェイリーたちの周りが、一瞬静かになる。その隙を縫ってグッキー達は走り出した。
「くりちゃ~ん・・援軍くるかしらぁ~」
「しるかっ! いいから、ほれ! 殴れ! トカゲをなぐれっ!」
「や~~ん。私白魔道士よぉ・・・・殴れな~~い・・・・・・・うぉりゃあっっ・・・・もう・・いやねぇ」
気が抜けそうな会話をしながら、一体、また一体と確実にトカゲに留めを刺し、敵のボスをさぐる。
「くそう! こうも多いとみわけがつかん・・・ジェイトン、どうだ?」
一向に減らない敵にうんざりしつつ、自分たちの体力の限界も計算しなければならない。回復魔法も限界がある。
「うーん・・・こうも。。おおいいとねぇぇ。そうだ! いっそのことテレポしちゃわない?」
「おお、いいな! それは・・で、テレポ唱えてる間にお前はぼこぼこ・・・はははは! 平和になるよなぁぁ!!」
「悪かったわよ・・・ごめんなさいねっ」
ふてくされてフェイリーたちのほうをみたジェイトンが悲鳴をあげた。
「いやーーーっっ!! やばいわっっ!!」
慌ててクリエルがそのほうに目をやるとグッキーとフェイリーの前に巨大な黒雲が出現していた。
「くっ・・・」
守りが異常に堅いトカゲたちに囲まれ、クリエルは身動きができない。
「グッキー! そこからはなれろっ!!」
そう叫ぶので精一杯だった。
「雨になりそうだね」
空を見上げ黒い雲が速度を速めて流れている様を見て、グッキーは誰ともなくつぶやく。
「ふむ・・・・ちょっと歩きを早めるか・・・」
その言葉に反応したクリエルが皆に向かって促すように言った。
「それがいいわね。ソロムグ入れば雨宿りできるところもあるし」
ジェイトンは同意し歩みを速める。みなもそれに習って続いた。
「フェイちゃん。格闘の練習はソロムグに入ってからしようね」
グッキーはにっこり笑ってフェイリーにいう。頷いて答え、遅れないようにフェイリーも皆の後を着いていった。
フェイリーの肩が治ってから、連日ライゼルとクリエルの指導の元フェイリーは格闘の修行(?) をしていた。わずかではあったがここいらのモンスターにも攻撃が当たるまでに成長していたのだった。
ウィンダスを出発してからすでに2週間がたっていた。旅なれないフェイリーの歩みに合わせてのんびりと進んでいく。
フェイリーにとって、見るもの聞くもの初めてのものばかりで、一つ一つ丁寧に説明しながら進むためますます歩みは遅くなっていったのかも知れない。
「さあ、フェイちゃん。この先がもうソロムグ原野だよ。最初の一歩を皆で一緒にはいろっか?」
にっこり笑って提案するグッキーに、フェイリーは嬉しそうに笑いながら元気に頷いた。
「まあ、ステキな提案。私も賛成!」
ジェイトンがグッキーとは反対側のフェイリーの隣に立つ。
「いいね」
クリエルも頷き、フェイリーとジェイトンの間に無理やり割り込んで立った。
「ちょっと・・・・なにするのよっ」
「背の順・・・・」
しれっと答えて、にやりとジェイトンに笑って見せる。
「なんですってーーっっ!! 」
たまらず声を上げるが、なるほどと変に納得したライゼルが素直にグッキーの立つ横に立ったものだから、ジェイトンは黙るしかなかった。
「あっはっはっは・・・・・」
勝ち誇ったようにクリエルは笑い出し、釣られて皆も笑い出す。だだ一人悔しそうなジェイトンを除いては。
「さぁ、いくよ! 1.2.の3!!」
ソロムグ原野に入ると少し塩の香りが混じった風が吹いていた。
「海があるの?」
敏感にそれを感じたフェイリーが聞くと、グッキーは頷いてそうだよと答えた。
「少しだけ荒い海だけどすぐそばが海だよ」
「ウィンダスにも海があるけど、いろんな海があるんだね」
穏やかなウィンダスの海の事を思い出しながら、フェイリーは頷いた。
「ふむ・・。だったら、雨がやんだら見にいってみるかい? もうすぐ天から雫が落ちてきそうだ」
クリエルの言葉に嬉しそうに行きたいとフェイリーは答え、空を見上げた。
「雨の匂いもするね」
「お前は犬かよ・・・」
鼻をひくひくさせているフェイリーにむかって、あきれたようにライゼルが言った。
「ウィンダスじゃみんなするもん! 」
「へーーーっ・・・」
「なによっ!」
兄妹(?) 喧嘩になりそうな二人に、グッキーは苦笑いして、雨が本格的に降ってくる前にテントを張ろうと促した。
「「はーーい」」
二人息の合った返事を返して、何かを言い合いながらテントを張れる場所を探しに向かう。そんな二人の様子に溜息をひとつついて、やれやれとグッキーは苦笑いをしたのだった。
「ママも大変ねー・・・・。てか、あの二人、なんだかんだと息が合ってるような気がするわ」
「クリエルさんとジェイトンさんみたいですよねー」
グッキーが発したこの言葉に、クリエルとジェイトンは絶句し、呆然と二人顔を見合わせた。
「冗談だろ!」
「冗談じゃないわっ!」
これまた、同時に叫んで、グッキーは『やっぱりそっくり』と苦笑いをするのだった。
建物が壊れ、残ったレンガの壁を利用して、旨い具合にテントを張ったフェイリーとライゼルは皆に手を振って合図を送った。
皆が、テントに入るとほぼ同時に雨が落ち始めた。
「・・・少し長雨になりそうだな」
静かに落ちてきた雫をみてクリエルが小さく呟く。少し苦しそうだとジェイトンは思った。この事に気づいたものはいただろうか。いや、いたとしてその訳を尋ねられたとしてもきっと答えはしないだろう。いつものにやりとした笑いを浮かべて『きのせいだ』と答えるに違いない。そう思って、ジェイトンは訳を聞くのをやめたのだった。
静かに落ちる雨の音を聞いているうちにフェイリーはうとうとし始め、ことんとすっかり定位置になったジェイトンの膝の上で眠ってしまった。
「あらあらあらあら・・」
そっとフェイリーを寝やすいように抱っこしなおしジェイトンは満足げに、くすくすとわらった。
「おっと・・・若人も眠ったか・・」
レンガの壁によりかかって、いつの間にかライゼルも居眠りを始めていた。
「やっぱり似てるわ・・この二人・・・」
おかしそうにジェイトンは笑って二人の顔を見比べる。
「ですよね」
グッキーも頷いて同意する。
「クリエルさん」
「んー? なんだい?」
グッキーはクリエルに向かって頭を下げた。
「おいおい、なんだ? どうした」
「すみません。やっぱり、報告した以上のこと思い出せないんです」
グッキーの言葉に、クリエルはそうか。。と頷き静かに目を閉じた。
「あの日、急いで現場に向かって、倒れていたお二人を見つけた。それだけ・・・僕はなにもできなかった」
悔しそうに、悲しそうにグッキーは言葉を震わす。
「グッキーちゃんのせいではないわ」
ジェイトンが言う。
「そのとおり。あの日たまたま担当がグッキーであったというだけだ」
「もう、フェイちゃんみたいな子を増やしたくないんです」
「そのためにも、がんばりましょう・・ね?」
ジェイトンの言葉に頷いて、グッキーは安心して眠るフェイのそばにより、やさしく頭をなでてやった。
「何かを知っていてなおも隠しているウィンの上層部。あちらこちらに出現している強化魔法をかけトカゲを操るヤグード。わからないことばかりだな」
クリエルの言葉に、同意してグッキーとジェイトンはうなずく。
「ああ・・・・。なんか、すっきりすることはないかね・・・・。仕方がない。俺たちも少し横になるとするか」
「じゃあ、私が火の番しておくから、安心しておやすみなさい」
「今回は、まかせるよ」
ジェイトンの言葉に素直に頷いて、クリエルはテント出入り口に一番近い場所にごろりと横になった。
「グッキーちゃんも、少しおやすみなさいな。雨がやんだら、とっとと出発してジュノに入りましょう。ゆっくりお風呂にはいりたいわー」
おどけるジェイトンに笑って頷き、グッキーもその場に横になった。
フェイリーはふと目を覚まし、みんながテントの中で眠っているのをみて、そっと、起こさないように歩いて外にでてみた。
雨はいつの間にか止んでいて、雨上がりの綺麗な空気を風がやさしく運んでいた。
「満月・・・きれー・・・」
ほほをなでる風に誘われるように空を見上げると、凛とした光を放つ真円なる月が浮かんでいた。
「目がさめたの?」
いつの間にかジェイトンが側に立って声をかけてきた。
「うん」
「綺麗な月よねー」
空を見上げてジェイトンも呟く。
「フェイちゃん。旅はたのしい?」
「楽しいです」
即答したフェイリーにうれしそうにジェイトンは頷いてその場に腰を下ろした。
「この辺にモンスターはいなかったから、大丈夫。少しお話ししましょう」
手招きされるまま、フェイリーはジェイトンのひざに抱かれるように腰をおろした。
「フェイちゃんは、これからもずっと冒険者するのかしら? もう決めた?」
「うーん・・・まだです。まだまだ、よわよわだから一人じゃだめだし・・・」
答えながら沈んでいくフェイの肩をぽんぽんたたいて、ジェイトンは慰める。
「あらあら、そんなことないわよ。強くなったわ」
「ほんとう?」
泣きそうな顔で見上げられて、ジェイトンはたまらなく抱きしめたくなる。
「本当よ!! サンドリアに行ったら、びっくりするわよ。あそこの周りの敵になんて負けないくらいにつよくなってるから」
抱きしめるのをぐっと我慢しつつ、フェイリーを励ます。
「よかった! 少しはつよくなれたんだ!」
全開の笑顔でガッツポーズをするフェイリーに、微笑み返してジェイトンは空を見上げた。
「ふう・・・綺麗なお月様のステキな夜の時間なのに・・・んもう! ぶすいねっ」
突然怒り出したジェイトンにびっくりして、フェイリーは周囲を見回す。
「なに??」
「うーん・・・なんでしょう・・・フェイちゃん。中の人たち全員起こしてくれる?」
フェイリーを抱いたまま立ち上がり、テントの前まで来るとそう告げた。
「はい」
うなずいたフェイリーに微笑んで、テント前に降ろしてやった。
「みんなっ! なにかよくわからないけどたいへん・・・・起きてる・・・・」
鼻息荒くテントに飛び込んだフェイリーの目に飛び込んできたのは、荷物をまとめ終わり、焚き火の始末をしているみんなの姿だった。
「いょお・・・ジョイルはそとかな?」
軽く手を挙げてクリエルがおどけてフェイリーにたずねる。フェイリーがそうだとうなずくと、クリエル独特の笑いを見せて立ち上がった。
「残りの片付けをしておくこと」
フェイリーに告げると、ライゼルに合図してテントの外に出ていった。
「はい!」
返事をしたものの、何が起こっているのかフェイリーにはわからない。
「うーとね・・・敵さんがきたみたい」
テントの端を引っ張りながらグッキーが言う。慌てて手伝いながらフェイリーが聞いた。
「敵が? なにもいなかったよ・・なんでわかるの?」
「んーーー・・・なんとなく・・かなぁ・・」
自分の眉間を指差してグッキーは続けた。
「この辺に・・こう。。ピリピリした感じがすると、敵が近くにいるんだよ・・・よく分からないけど、そうなの」
「すごいや! みんなそうなのかな?」
「うーん・・どうだろう・・・感じ方は色々・・・かなぁ」
ふーん・・と、頷きながらテントを必死に畳み、くるくると丸めて荷物をまとめる。
「ふう・・・。これでよし。あとはーー」
グッキーはフェイリーに守りの魔法、プロテス・シェルをかけてやり守るように側に立った。
「グッキーさん・・・」
「うん。大丈夫。守るから。みんなが守るから、そばを離れちゃだめだよ」
グッキーの言葉に頷き、周囲を見回す。
「くる・・・・・・」
突然、グッキーが抜刀した。
「月光の刃! バニッシュ!! 」
ジェイトンの魔法がフェイリーの目の前ではじけた。
『うぎぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・』
まだ姿を見せなかった敵に、魔法が命中した瞬間それは姿をみせた。
「ヤグード!!!」
フェイリーが驚きの声を上げるのと、グッキーの刃がヤグードに振り下ろされるのは同時だった。
よく、周囲を見回してみれば軽く200体はいるだろうか、ヤグードたちがトカゲを従えフェイリーたちを取り囲んでいた。
「グッキー、フェイリーをたのむ!! ライゼル、ヤグードは任せたぞ! ジェイトン、俺につづけっ!」
クリエルからそれぞれの役目を与えられ、実行する。
「フェイちゃん、いい? 怖くても僕から離れちゃだめだよ。絶対守るから。みんなでまもるからね」
先ほど伝えた言葉をもう一度、念を押すように繰り返し言う。これに答えフェイリーも強く頷いた。
「道を開く・・・・・ライ君!! 左にはしって!! 」
グッキーがライゼルに指示を出す。それに答えてライゼルが左リ側に走り出す。
『母なる大地の秘めし怒りの力我に宿りて敵を刺せ! ストーンIII』
グッキーの大地魔法が、ライゼルの攻撃で手薄になっていた場所に立つヤグードに直撃し、倒す。すかさずライゼルが側にいたヤグードを倒して道を少し広げた。
グッキーはフェイリーを促し、この敵の輪の外に出ようとした。
二人は走り出す。ライゼルも二人を援護しながら道を開いていった。
『月光の刃! バニッシガII!!』
ジェイトンの範囲魔法が発動してフェイリーたちの周りが、一瞬静かになる。その隙を縫ってグッキー達は走り出した。
「くりちゃ~ん・・援軍くるかしらぁ~」
「しるかっ! いいから、ほれ! 殴れ! トカゲをなぐれっ!」
「や~~ん。私白魔道士よぉ・・・・殴れな~~い・・・・・・・うぉりゃあっっ・・・・もう・・いやねぇ」
気が抜けそうな会話をしながら、一体、また一体と確実にトカゲに留めを刺し、敵のボスをさぐる。
「くそう! こうも多いとみわけがつかん・・・ジェイトン、どうだ?」
一向に減らない敵にうんざりしつつ、自分たちの体力の限界も計算しなければならない。回復魔法も限界がある。
「うーん・・・こうも。。おおいいとねぇぇ。そうだ! いっそのことテレポしちゃわない?」
「おお、いいな! それは・・で、テレポ唱えてる間にお前はぼこぼこ・・・はははは! 平和になるよなぁぁ!!」
「悪かったわよ・・・ごめんなさいねっ」
ふてくされてフェイリーたちのほうをみたジェイトンが悲鳴をあげた。
「いやーーーっっ!! やばいわっっ!!」
慌ててクリエルがそのほうに目をやるとグッキーとフェイリーの前に巨大な黒雲が出現していた。
「くっ・・・」
守りが異常に堅いトカゲたちに囲まれ、クリエルは身動きができない。
「グッキー! そこからはなれろっ!!」
そう叫ぶので精一杯だった。
by ryo0610hi
| 2006-07-11 13:28
| ジュノ編