風の教えるままに ~バス編6~


一方、相変わらず平和そうに眠っているフェイを思い切り蹴飛ばしたつわものがいた。
「ぬぉぉぉぉぉっ!」




蹴っ飛ばした勢いのままに、ヒュームの青年は、盛大にメアのクリスタルのある台座から転げ落ちていた。
蹴り飛ばされて、台座から転げ落ちそうになったフェイリーをあわてて黒髪のヒュームの青年が捕まえ、間一髪のところで落下を免れた。
「トモ・・・・そんな盛大登場シーンはだれも望んでいないと思いますが?」
「俺だって望んでない! ってか、アーさん・・・そこは心配して声をかけるのが友情ってものじゃないか?」
よよよと、なくまねをしてトモがいうと、アーさんと呼ばれた黒髪のヒュームの青年は盛大にため息をついた。
「トモがものすごい勢いで蹴り飛ばしたタルタルの少女を助けた私に、あなたの心配をする余裕はないです」
「!! 俺がなにかにつまずいたのって、タルの女の子だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
勢いよく起き上がったかと思ったら、加速装置がついているのではないかと思うような勢いで、トモはアーさんの元へと戻ってきた。
「け・・怪我してない? 頭打ったりしてないかな?息してる?」
「トモ・・心配の方向がだんだん縁起でもない方へ向かっていますよ・・・それに彼女が死んでいたら、トモを殺人犯として私は逮捕しなくてはいけなく・・・」
「まてまて・・・(汗」
真顔でいうアーさんに軽く戦慄を覚えながらも、タルタルの少女を覗き込んだ。
「うっは・・酒くっせ~」
「酔っ払っているようですね。こんな小さな子にお酒をのませるとは、言語道断。逮捕だ」
「アーさん。・・・今はプライベート中だから仕事はわすれようよぅ」
にやりと不適な笑いを浮かべたアーさんが腕の中で身じろぎしたフェイリーに気がついた。
「おや、目を覚ましたようですね」
「ん・・・・・うごぉぉぉぉ・・・・・」
目を覚ましたと同時に、意味不明な言葉を上げてフェイリーはうなり出す。その様子に、自分が蹴り飛ばしせいかとトモは激しく動揺した。
「ふむ・・・二日酔い・・か・・」
トモとは反対に冷静な判断を下すアーさん。
「あ゛だま゛い゛だい゛・・・・・」
搾り出すような声で半分うなりつつ、フェイリーは頭を抱えてアーさんの腕の中でうずくまる。その様子をみていたトモが両手をそっとアーさんに差し出して真顔になり、こういった。
「僕の責任で彼女を宿屋まで連れて行くよ、アーさんは奥さんの元へ急いでくれ」
「・・・・・・・・。」
きりりとまじめな顔をして言ったトモを、アーさんはジーっと見つめた。ただ黙ったまま、穴が開くほどに見つめた。
「さて、この子をとりあえずマウラの宿屋まで連れて行くので、トモは私の愛する妻へ少し遅くなると伝えてください」
「・・・・・・・・・。」
今度はトモが、見つめる番だった。
「トモ・・・下心が見えすぎですよ・・・」
「うううう・・・」
「悪さしないという保証がないので、私が抱いていきます」
「ず・・・・・・」
「ず?」
「ずるいっ・・・」
「・・・・・・。トモ・・・なきながら言わないでください」
「ないてなんかないんだからっ、ただタルタル族を愛しているだけなんだからねっ」
「はいはい・・・それよりも、子のこの保護者はいないんだろうか・・・」
「うーん・・そもそも、なんであそこで転がってたんだろ」
「石をとりにきた新米冒険者・・・だったら、酔っ払って寝転んでないはずですよね・・・」
「だよなぁ・・・うーん・・・」
不思議現象に頭を悩ませる二人だったが、そんな二人の会話も耳に入らないくらいの頭痛にフェイリーはただ、ただうなり声を上げるだけだった。

トモとアーさん二人がメア石から立ち去ろうとしたそのとき、ちょうどよくターリがテレポしてきた。
「ん・・んんんん?」
アーさんの腕の中でうずくまるフェイリーをターリは見つめる。
「あー、こちらターリ」
『なにか?』
一層不機嫌になったらしい団長がだれよりも早く返事をした。
「こぇぇ・・・。いやそうじゃなくて、フェイリーの服装って白い胴着に茶色いズボン?」
『そうです! そうなんです! らい君がプレゼントしてくれたってすごく喜んで』
『ぐっきーさん、余計なことまでいわないでください!』
「ほっほっー! んじゃ間違いはないかなぁ・・・メア石前でみつけたっぽ」
『確保せよ』
「らじゃり」
『捜索隊に告ぐ。グッキー、ライゼルはターリの元へ向かえ。この件の後始末の全権をターリに任す。その他のメンバーも捜索の任を解く。
おっと・・メビウス・カイル・クリエル・スラグは至急サンドリアへ帰還せよ。以上』
団長の指示に同意の返事をする中、たった一人文句を返したつわものがいた。
『え~~~~~私はなにも悪いことしてないのに、団長の意地悪!』
『メビウス・・・今から十数えるうちにサンドリアに到着しないなら、一生休みがないようにしてあげてもいいんだが?』
『横暴だ~~~~』
『メビさん、ガンバ! 俺はこのまま休暇にもどるぜ~』
『リュウのうらぎりもの~』
この会話を聞いていたアイーシャがぷっと吹き出すと、団長の鋭いにらみが突き刺さり、笑いをあわてて引っ込めて書類に集中するのだった。


『あ~~!!! 丁度ええところにアーさん達おるやんっ!』
アーさんとトモの持っているパールから響き渡った声は、マコのものだった。
「丁度いいところ?」
トモが聞き返すとマコは、メア石のところで寝ているタルタルの女の子を確保してくれとものすごい勢いでまくし立てた。
「女の子・・もしかして、二日酔いで私の腕の中で盛大に唸りをあげているこの子のことかな?」
『さすがアーさん! 手が早い!!』
「マコさん。ほめ言葉に聞こえません」
『気にしたらまけやで!』
「気にします。まあ、いいでしょ。ところで、マコさんが飲ませたのですか?」
『ちゃうわ・・私も拾った口やねん・・・ただ・・なぜそこに寝ていたかというと・・・話すと長くなるから・・・』
マコのそばで怒鳴り声が聞こえてくる・・それだけで大体察してしまった、アーさんとトモであった。
「まあ、大体察しはつきますが・・とりあえずこのままにもしておけないので、マウラの宿屋で休ませようと思っています。そこで落ち合いましょう」
「おっとまった、そこに連れて行くのまってくれるかなぁ」
突然後ろから降って沸いた声に、とっさに反応してアーさんは剣を抜き身構えた。
「ちょっとまっっったぁぁぁ! 痛いの嫌いなんだから剣はしまってくれるとうれしいな」
武器を構えず、両手を挙げ、戦う意思はないのだとアピールしてターリは続けた。
「その子、フェイリーっていうんだけど、家の子なのよ・・・返してくれないかなぁ」
「お父上でしたか」
剣を収めていうアーさんに「父親ではないんだが・・・」右手を顔の前で振りながら否定した。
「サンドリアの見習い騎士・・と、言えばいいか」
「ああ、そういう意味ですか」
「騎士には見えないけど・・・」
トモがつぶやくと、ターリはがっくりと肩を落として、わざわざそばにいた蜂を操り「いいもん・・蜂さんと孤独にいきるもん・・」と、泣きまねをしながら落ち込んだ。
「あ。。すみません! あなたではなく、この子が・・・」
あわてて否定するも、心になにか深い傷を持っているのかなかなか浮上しない・・
「まあ、あれです。この子二日酔いで動けないようですし、とりあえず宿屋で話しましょう」
「・・・うん・・・」
結局、全員がマウラの宿屋に集合することとなったのだった。


幸いなことに、マウラの宿屋には空きがあった。最近、『アトルガン』という国と国交が始まりその定期船がここから出ていることもあって、なかなかに賑わいを取り戻してきた
町である。
唸るばかりのフェイリーにターリは無理やり水を飲ませ、ベッドに横たえ額にぬれたタオルを乗せてやる。
「ごめんなさい・・・あ・・ありがと・・・」
「まあ、悪いのはメビさんだしね、気にしないで横になってるといいよ。君はなにが起こったかま~~~ったくわかってないだろうしね」
笑いながらターリはフェイにいって、やさしく頭をなでた。
「親子にしか見えない・・・」
「おだまりぃぃぃ」
二人の様子をみていたトモが呟くと、ターリは過剰に反応してにらみつける。
「す・・すみません・・・」
「おいらはまだ若いんだから、やめて頂戴! なくからねっ」
「は・・はいっ・・」
「なんやトモっぺまた、誰かを泣かせたんか?」
「またってなにっ またって!」
声がしたほうをみると、マコとリン。そしてイーさんが部屋へはいってきた。
「頼むから、あんまり人聞きの悪いいわないでよ」
トモが抗議するとマコは笑って受け流したが、がつちり受け止めた人もいた。
「トモさんとやら・・煙の立たないところから火は・・・」
「それをいうなら、火のないところから煙は立たないですよ・・【おとうさん】」
ターリがふざけていうと、丁寧にアーさんが突っ込む。
「なんやの・・この絶妙なボケと突っ込み・・」
リンがひどく感心して二人をみつめていた。
「そやけど、この子が無事でよかった・・」
寝息を立てはじめたフェイリーを覗き込んで、マコは改めてほっと胸をなでおろした。そして、ターリを見て深々と頭を下げた。
「ほんま、済みませんでした」
「あ、いやいや、こっちこそ酔っ払いが面倒をおかけしました」
つられるようにターリも頭を下げる。
「この子に酒を飲ませた万年酔っ払いは、今、こわーいお姉さまにこってりと絞られてるはずだから、ごめんしてやってください」
「・・・万年酔っ払い・・・」
「まあ、言葉のあや・・とも言い切れないけど、そんな感じの人なのよ」
苦笑いをしてターリはマコの呟きにうなずいた。
「付き添いが、もうすぐここに来るはずだけど、ちょっと目を放した隙に酔っ払いに飲まされてたらしくてね・・・んでもって・・いつの間にかいなくなったと・・」
「この子、北グスタベルグの街に近い橋の上でそりゃ気持ちよさそうに寝とったんよ」
ターリがマコが話しやすくなるように、自分から知っている事情を簡単に説明してやる。と、マコも続けて話し始めた。
「行き倒れかとおもって覗き込んだら、『おかあさん』いわれて手をぎゅーーっと握られてしまって・・」
「動けなくなったと・・?」
マコの言葉にトモが疑問をなげる。
「そうやねん。んで、買い物の途中やった私とリンだけでは荷物もあったしこの子を運べないから、イーさんを呼んだんやけど」
「この馬鹿が、人の話をちゃんと聴かないでメアに飛んでしもうて・・・んで、家族も心配しているだろうから、なんとか早くバスにもどらなって・・」
ここまでリンは一気にしゃべって、マコと二人イーさんをじっと見つめてから深いため息を漏らした・・。
「まあ・・なんとなく・・想像はつくな・・」
「うん・・・」
ターリの呟きに、アーさんとトモもうなずいた。
「私が、コロスケなら早いなんて言っちゃったもんだから、イーさんがまた飛んじゃって・・案の定・・この子ルテ石もってへんかった・・」
「んで置いてけぼりか・・」
ターリがなるほどとうなずいた。
「そこに私とトモが入れ違いにメアへ現れたってことですね」
「もう、それに気がついたときは、涙がでたで・・」
「トモは思い切り蹴り飛ばしてましたけどね」
「そ・・それは・・不可抗力でっ・・」
アーさんにばらされ、みんなからいっせいに「えー・・ひどーい」といじめらる。
「まあ、事情はよくわかった。迷惑をかけてしまって申し訳ない。改めて謝罪します」
ターリが全員に頭を下げる。
「わわわわ、頭をあげてくださいっ」
マコとリンがあわてた。
「こっちの不手際で面倒なことになってしまったんよ。悪いのはこちらです。ごめんなさい」
マコとリンは深く頭を下げた。イーさんにいたっては土下座している。
「この子も無事だったし、原因を作った人は今頃お仕置きされているし、ここはひとつ、両成敗ってことで手を打ちませんか!」
「ぇぇぇ。。そ・・それでいいんか?」
ターリの提案に、マコはあわてた。
「んー・・、いいと思う。おいらこの件の全権をまかされちゃってるしぃ、ここにいる人全員だれも悪くないし。いいんじゃね?」
そういって豪快に笑った。

解決したのならと、アーさんとトモはウィンダスへと旅立っていった。
「奥さんを迎えに行く」のだそうだ。トモは野次馬らしい。
マコたちも、買い物を再開するべく宿を後にしたのだった。
グッキーとライゼルが宿屋についたころには、ターリしか残っておらず事の真相を聞いた二人はそれはもう、思い切り脱力したのだった。

『ライゼル。此度の事件の報告書は君が書いて提出するように。との団長からのおたっし。怖いからはやく提出したほういいよ・・』

疲れた声でアイーシャから連絡を受けたライゼルは、ベットの上ですやすやと眠るフェイリーを恨めしげに見て、もう二度と酒場には近づけまいと心に誓うのだった。




「フェ・インですか・・」
団長に呼び出された、メビウス・カイル・スラグ・クリエルはフェ・インへ向かうようにといわれたのである。
「あの氷の世界の先にある塔の中で異変が起こっているらしい。アンテッド族・・ボーン族の一体が・・無限に仲間を増やすとか・・・
それが真実なのか確かめろとのじじぃたちのお達しだ。行ってくれるか?」
「ふむ。そんなうわさを確かに小耳に挟んだことはあるな」
カイルがうなずいた。
「ほう、どこでだ?」
「バスの酒場で、です。軍関係者らしき一人がそんなようなことをいってました」
「と、なると・・あながち冒険者の噂話だけってことでもなさそうだな」
クリエルも乗り気になってきたようだった。
「わたしのディアが役に立ちますね」
メビウスはにっこり微笑んだ。
「自分はおとなしいとでもいいたげですね。めびさん」
スラグが首を横に振ってため息をつく。
「えーー! 私はこわがりですよ!」
「あー、はいはい。」
激しく斜めに進んでいきそうだった会話をとめたのは、団長の咳払いだった。
「で、どうする? いってくれるか?」
「もちろんです。なにか取り返しがつかないことが起こらないうちに、調査してきます」
スラグが敬礼して答えると、全員がそれにならう。
「よかった。あとひとり二人団員を見繕っていくといい。なにがあるかわからない。よろしくたのんだ」
「了解しました」
団長が立ち上がって敬礼をする。と、全員が敬礼で返しそれぞれが準備のために部屋を後にした。
「何事もなく戻ってきることを祈る・・・」
静かに閉まった部屋の扉を見ながら、祈るように呟いたのだった。
by ryo0610hi | 2009-04-13 13:48 | バス編